主な内容
【背景】肛門手術の少ない合併症の中で術後尿閉は患者に肉体的および精神的苦痛をもたらし、さらには導尿による尿路感染、入院期間の延長、治療費の増大などを誘起し、いまだ臨床的に問題である。
【方法】2003年1月〜6月の間に肛門良性疾患に対し、腰椎麻酔下に経肛門的手術を行った入院患者2011例を対象とした。(術前及び術中に尿道カテーテルを留置した40例は除外した)手術後24時間に排尿困難による腹部膨満感や不快感を訴え、導尿を行ったものを術後尿閉と定義した。検討因子は、性、年齢、排尿障害の既往の有無、糖尿病の有無、プライバシーの有無、腰椎麻酔の3% Lidocaineの使用量、術後硬膜外持続麻酔使用の有無、手術術式、止血用肛門パッキングの有無、手術時間、手術当日の輸液量、術後の鎮痛剤の使用で、術後尿閉に対する影響を統計学的に解析した。有意差検定にはχ二乗検定、logistic回帰分析を用い、P<0.05をもって有意差ありと判定した。
【結果】1)全症例中16.7%に術後尿閉を認めた。手術術式は有意な因子であり、痔核根治手術(21.9%)、裂肛および肛門潰瘍手術(17.2%)、直腸脱手術(29.2%)では高率であったのに対し、痔瘻根治術(6.3%)、肛門周囲膿瘍切開排膿術(2.3%)、膿皮症(0%)、毛巣洞(0%)、尖圭コンジローマ(0%)であった。
2)多変量解析による痔核根治術1243例の検討では、女性、糖尿病の合併、排尿障害の既往、術後鎮痛剤の使用、結紮切除の数が有意な危険因子であった。
3)多変量解析による痔瘻根治術349例の検討では、女性、糖尿病の合併、手術当日の輸液量>1000mlが有意な危険因子であった。
4)術後尿閉の予防として、手術直前の排尿促進、術中術後の輸液の制限、術後の飲水制限、医療従事スタッフの教育を行ったところ、尿閉発生率は16.7%より7.9%に減少した。
【結語】痔核手術、女性、糖尿病の合併、排尿障害の既往、術後鎮痛剤の使用、手術当日の過剰な輸液量が肛門手術後の尿閉の有意な危険因子であった。手術当日の輸液、飲水の制限が尿閉の予防に有用であった。
PURPOSE: This study was undertaken to determine the incidence of and risk factors for urinary retention after surgery for benign anorectal disease.
METHODS: We reviewed 2,011 consecutive surgeries performed under spinal anesthesia for benign anorectal disease from January through June 2003 to identify potential risk factors for postoperative urinary retention. In addition, we prospectively investigated the preventive effect of perioperative fluid restriction and pain control by prophylactic analgesics on postoperative urinary retention.
RESULTS: The number of procedures and the urinary retention rates were as follows: Hemorrhoidectomy: 1,243, 21.9%; fistulectomy: 349, 6.3%; incision/drainage: 177, 2.3%; and sliding skin graft/lateral subcutaneous internal sphincterotomy: 64, 17.2%. The overall urinary retention rate was 16.7%. With hemorrhoidectomy, female sex, presence of preoperative urinary symptoms, diabetes mellitus, need for postoperative analgesics and more than 3 hemorrhoids resected were independent risk factors for urinary retention as assessed by multivariate analysis. With fistulectomy, female sex, diabetes mellitus, and intravenous fluids > 1000 ml were independent risk factors for urinary retention. Perioperative fluid restriction, including limiting the administration of intravenous fluids, significantly decreased the incidence of urinary retention (7.9% vs. 16.7%, P < 0.0001). Furthermore, prophylactic analgesic treatment significantly decreased the incidence of urinary retention (7.9% vs. 25.6%, P = 0.0005).
CONCLUSIONS: Urinary retention is a common complication after anorectal surgery. It is linked to several risk factors, including increased intravenous fluids and postoperative pain. Perioperative fluid restriction and adequate pain relief appear to be effective in preventing urinary retention in a significant number of patients after anorectal surgery.
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