痔瘻ってなに?
痔瘻と肛門周囲膿瘍の原因
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肛門と直腸の境目の歯状線には肛門小窩という小さいくぼみが8~12ぐらいあって肛門腺につながっています。このくぼみに便のなかの細菌が入り込み、膿をつくってしまった状態を肛門周囲膿瘍にいいます。その後いったん膿が出てしまいおしりにトンネルのような瘻管ができた状態を痔瘻といいます。したがって肛門周囲膿瘍と痔瘻は、肛門腺の感染が原因でおしりが化膿するというひとつの病態の、急性期と慢性期の状態を表しているといえます。
肛門周囲膿瘍
肛門腺にいったん感染が起こると、膿はどんどん大きくなるため、おしりの腫れや痛みは日に日に強くなり、発熱も伴います。男性に多く、下痢、疲れや飲み過ぎが原因になることもあります。痛み止めや化膿止めなどで良くなることはなく、皮膚がやぶれて自然に膿が出るか、病院で切開をして膿をだすまで膿瘍はひろがり悪化します。
痔瘻
いったん膿がでれば、腫れや痛みは軽くなり、炎症も落ち着いていきます。しかし一回瘻管ができてしまうと完全に消えてなおってしまうことはありません。(乳児の痔瘻だけは例外的に自然になおることがあります)皮膚側の穴からずっと膿が出続けることもあれば、数年おきに腫れて痛んでつらくなる場合もあります。細菌の侵入口となった肛門陰窩を一次口(または原発口)といい、膿の出口である皮膚側の穴を二次口といいます。
痔瘻にもいろんなタイプがあります
痔瘻の種類
痔瘻にも単純で治療しやすいものから、複雑で治療が難しいものまでいろいろあります。痔瘻の分類にはさまざまありますが、日本では隅越分類、世界ではParks分類はよく使われています。
隅越の痔瘻分類
- 隅越分類とは左図のように、直腸肛門周囲の隙間を上皮、肛門括約筋、肛門挙筋によって4つにわけて、痔瘻の管がどの部分を通るかによって分類したものである。
- Ⅰ型痔瘻は最も軽く、外来手術も可能である。裂肛などが原因のことが多い。
- Ⅱ型痔瘻(筋間痔瘻)は頻度が最も多いタイプで、痔瘻全体の約70%をしめる。後方のものには瘻管切開手術、前側方のものには括約筋温存手術が行われる傾向にある。
- Ⅲ型(坐骨直腸窩痔瘻)はほとんどが後方が原発で馬蹄形に痔瘻の管がのびるタイプで、痔瘻全体の約20%をしめる。Hanley手術(部分的な瘻管開放手術)または括約筋温存手術が行われる。
- Ⅳ型(骨盤直腸窩痔瘻)は最も深く、重症であり、痔瘻全体の数%をしめる。Hanley手術(部分的な瘻管開放手術)または括約筋温存手術が行われが、傷が治るのに数ヶ月が必要で、再発の頻度も最も高い。
パークス Parks の痔瘻分類
痔瘻を瘻管の走行によって次の5つのタイプにわけています。
- 表在型痔瘻 (a, superficial fistula)
- 括約筋間痔瘻 (b, intersphincteric fistula)
- 括約筋貫通痔瘻 (c, transsphincteric fistula)
- 括約筋上痔瘻 (d, suprasphincteric fistula)
- 括約筋外痔瘻 (e, extrasphincteric fistula)
クローン病による痔瘻
- 炎症性腸疾患であるクローン病には肛門の病変が高率に合併する。
- クローン病に合併した痔瘻の特徴は、痔瘻の管の走行が複雑で長く、二次口が多発しているのが多い。
- 痔瘻以外に、スキンタッグ(外痔核の腫れ)や深い不整な形の裂肛が多発していることが多い。
- 治療はクローン病の腸病変に対する栄養療法や薬物治療を優先する。
- 膿瘍形成がある場合は切開排膿によるドレナージを行うが、膿瘍を繰り返しやすいのでドレーンを留置することが多い。
- クローン痔瘻は再発しやすく、多発しやすいため、根治手術の適応は慎重に決めないといけない。
フルニエ症候群
- 肛門周囲にとどまらず、会陰部、陰茎、陰嚢さらには体幹部へ急速に進行する激症型の壊死性筋膜炎である
- black spot(皮膚の黒色壊死部)、膿瘍内のガス形成、腐敗臭を伴う分泌物などが特徴である。
- 早期診断・早期治療が遅れると、ショックとなり死亡することもある。
- 糖尿病の男性に多いといわれている
痔瘻癌
- Ⅲ型やⅣ型の深部痔瘻が10年以上活動していると、癌が発生することがある。
- ゼリー状の分泌物が認められたり、痛みが強くなったりして気付くことがある。
- 治療は直腸切断手術を行う。
非痔瘻性の肛門周囲膿瘍
- 肛門周囲膿瘍の多くは肛門腺の感染が原因ですが、そうではないタイプの膿瘍もあります。
- 臀部膿皮症や化膿性粉瘤などは皮膚や汗腺の細菌が入り込みおしりの周りに膿をつくります。
- 毛巣洞といって仙骨や尾骨のところに大きな膿の空洞をつくる病気もあります。
痔瘻を治そう!
痔瘻と肛門周囲膿瘍の治療
治療に関しても、急性期である肛門周囲膿瘍と慢性期である痔瘻の病期にわけて方針をたてていくのがいいと思います。
肛門周囲膿瘍の治療
- 一度感染が起こり膿瘍形成が始まると膿は出口ができるまで大きくなっていきます。
- 膿を出すのが遅くなればなるほど、膿は広範囲に拡がったり、深いところに拡がったりして、重症化するので、一日でも早く病院にいって切開排膿する必要があります。
- 浅いタイプや単純なタイプの切開排膿は局所麻酔で、日帰り手術で行えます。
- 深いタイプや複雑なタイプでは腰椎麻酔や仙骨麻酔が必要になったり、入院が必要なこともあります。また、正確な膿瘍の拡がりを把握するために、超音波検査、CT検査、MRI検査などが必要なこともあります。
痔瘻の治療
- 炎症が落ち着いた痔瘻でも将来膿瘍形成を繰り返す原因になるので、不安を取り除くためには根治手術が必要です
- 膿瘍期の切開は急を要するのに対し、慢性期の痔瘻の根治手術は急いでする必要はなく、予定をたてて行うのが通常です
- 痔瘻の根治手術には大きく分けて、瘻管開放手術と括約筋温存手術の二種類があります
- 瘻管開放手術は痔瘻の管を全部切り開く方法で、根治性が高い一方、括約筋機能に影響を与えます。
- 瘻管開放手術は浅いタイプの痔瘻や後方の痔瘻に対して行われることが多いです
- 括約筋温存手術は筋肉は切らずに痔瘻の管をわけてとる方法で、括約筋機能は充分に温存されますが、再発の頻度が高くなります。
- 括約筋温存手術は深いタイプの痔瘻や前側方の痔瘻に行われることが多いです